「かつての首都はメキシコシティ」フィリピンはラテン系国家なのか?

フィリピンシリーズ第2弾です。国籍別在留者数第4位と、日本でも一定の存在感があるフィリピン。地理的には東南アジアの島国ですが、特異な歴史や文化から「アジアではなくラテン系の国ではないか」という議論が海外では根強くあります。フィリピンという国のどういった点がラテン系といえるのでしょうか。そして、それについてあなたはどう思いますか?

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目次

  1. 歴史:かつての首都はメキシコシティ
  2. 名前:一番多い苗字はサントスさん
  3. 言葉:スペイン語由来のタガログ語
  4. 民族:スペインとの混血率は
  5. 宗教:ASEAN唯一のカトリック
  6. 結論:フィリピンはラテン系なのか

◼️歴史:かつての首都はメキシコシティ

フィリピンと聞くと、スペインの植民地だった歴史を思い浮かべる人も多いでしょう。スペインによるフィリピン支配はマゼラン到来に端を発し、1565年の初代総督レガスピの到着から1898年のフィリピン共和国成立まで333年に及び、スペイン人との混血やスペイン文化の浸透が進みました。

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植民地時代のフィリピン総督領は、スペイン帝国の海外領土「ヌエバエスパーニャ(ニュー・スペイン)副王領」の行政区画の一つで、副王領の首都が置かれたのは、ラテンアメリカメキシコシティでした。スペイン帝国は、遠く離れたアメリカ大陸のメキシコと東南アジアのフィリピンを一体の領土として扱い、ガレオン船を使った交易を行ったのです。

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同副王領は、その後アメリカ合衆国領となった地域(アラスカ州やグアム含む)以外は現在、総じてラテン系の国・地域と呼ばれています。「フィリピンの首都がメキシコシティだった」という歴史は、フィリピン=ラテン系説の根拠の一つと言えるでしょう。

◼️名前:一番多い苗字はサントスさん

フィリピン人の苗字は、アメリカや日本の統治を経て独立した今でも、圧倒的にスペイン語が主流です。「フィリピンの苗字トップ20」という英語サイトを見つけたので、そのうちのトップ5を抜粋します。

①Santos サントス:スペイン語で「聖人」

②Reyes レイエスレジェススペイン語で「王」

③Cruz クルス:スペイン語で「十字架」

④Bautista バウティスタ:スペイン語で「洗礼者」

⑤Ocampo オカンポ : スペイン語の地名・人名

出典:Top 20 Family Names in the Philippines

いずれもスペインやラテンアメリカで一般的な苗字です。苗字だけを聞いて、その人がフィリピン人かスペイン人かを区別することはほぼ不可能に近いでしょう。

◼️言葉:スペイン語由来のタガログ語

フィリピンの公用語の1つ、フィリピノ語はタガログ語をベースにしています。スペイン語は英語やドイツ語と同じインド・ヨーロッパ語族 ですが、タガログ語オーストロネシア語族で、ポリネシア諸語や台湾諸語の親戚です。そうなるとラテン系とは違うようにも思えますが、実は語彙レベルではスペイン語の影響がかなり色濃く残っています。以下はその例です。(意味:スペイン語タガログ語

・仕事:トラバーホ(trabajo)→トラバーホ(trabaho)

・トイレ:バーニョ(baño)→バーニョ (banyo)

・車:コーチェ(coche)→コーチェ(kotye)

・イケメン:グァポ (guapo)→グワポ(gwapo)

・1時:アラウーノ(a la uno)→アラウーノ(a la uno)

・お元気ですか:コモエスタ(como esta)→クムスタ(kumusta)

タガログ語の綴りは、スペイン語の単語を聞こえたままにローマ字に写したように見えます。1時、2時、3時という時計の読み方はスペイン語タガログ語も同じです。口頭での簡単な単語の羅列であれば、スペイン語話者とタガログ語話者は意思疎通が可能でしょう。

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◼️民族:スペインとの混血率は

ラテンアメリカ諸国は、国によって程度の差はあれ、歴史を通じてスペイン人との混血がかなり進みました。それに比べると、フィリピンの国民は、スペインからの距離が遠かったこともあり、中南米ほどにはスペインとの混血が進まなかったと言われています。

フィリピンでは、スペイン人とのミックスはラテンアメリカ同様「ミスティーソ(男)」「ミスティーサ(女)」と呼ばれ、マレー系で浅黒い「モレーノ(男)」「モレーナ(女)」とは区別されます。中国系の見た目の場合は「チニート(男)」「チニータ(女)」です。下の写真は植民地時代のミスティーサです。

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またフィリピン国内で存在感の大きいスペイン系財閥の一族は、長い歴史を通じてヨーロッパの血統を守り続けており、フィリピン人でありながら外見的にはスペイン人そのものです。著作・肖像権の関係で載せられませんが[zobel de ayala]で画像検索すると、代表的なスペイン系財閥の経営者一族が出てきます。

蛇足になりますが、初代総督レガスピ以来、フィリピンにおけるスペイン出身者にはバスク系が多く、zobel de ayala一族もバスク系の家名を今に受け継いでいます。

◼️宗教:ASEAN唯一のカトリック

ラテン系国家の特徴として、カトリック信仰が厚いということが挙げられます。日本の外務省の基礎データによると、フィリピンのカトリック人口は83%で、そのほかのキリスト教が10%となっています。カトリックが主流の国は、ASEANでは唯一で、この点は明らかに中南米のラテン系の国々に近いと言えます。 

 出典:フィリピン基礎データ | 外務省

◼️結論:フィリピンはラテン系なのか

以上のことを踏まえた結論はどうなるでしょうか。ほかのアジアの国に比べ、ラテン系の要素が多いことは疑う余地がありません。「ラテン系の国だと思う」という人もいれば「いや、それでもアジアの国だ」という意見もあるでしょう。日本には現在、26万人を超えるフィリピン人が暮らしていて、フィリピンにルーツを持つ子どもたちも増えています。この記事が、日常生活やテレビで見る機会の多いフィリピンの人々に対して、興味を持つきっかけになれば幸いです。