日本人とオーストロネシア人。遺伝子と言葉に残る海洋民族の足跡

前回記事の関連です。◯◯ネシアについて知れば知るほど、今の世界はオーストロネシア人の存在なしは語れないことを思い知らされます。ヨーロッパ人による大航海時代のはるか昔に、台湾から太平洋、インド洋へと繰り出した彼らは、もちろんすぐ近くの日本にも渡ってきていました。彼らが私たち日本人に残してくれた置き土産についてご紹介したいと思います。

関連記事:①ポリネシア②ミクロネシア③メラネシア④マカロネシア:あなたは違いを説明できますか? - ウエノBlog

目次
  1. すべては台湾から始まった
  2. イースターからマダガスカルまで
  3. 日本にもやってきたオーストロネシア人
  4. 言葉に残る海洋民族の足跡
  5. あの子がフィリピン人に見える理由

◼️すべては台湾から始まった

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(オーストロネシア人の移動)

フィリピンのタガログ語やマレー語、ポリネシア諸語、チャモロ語といったオーストロネシア語族の言葉を話す人々(以下、オーストロネシア人)は、もともとは漢民族化される前の中国大陸から台湾に移り住んだ先住民族でした。日本では高砂族と呼ばれたこともありました。彼らの一部は、5000年ほど前からフィリピンを皮切りに東南アジアやミクロネシアポリネシアとカヌーを使って海を渡り、土地の先住民と緩やかに混血しながら活動範囲を広げ、東南アジア人やポリネシア人の祖となったのです。

ディズニーのアニメ映画「モアナと伝説の海」の挿入歌「We Know the Way」にポリネシア人の航海シーンが描かれていて、イメージを掴みやすいです。

🌊⁠⁠⁠⁠ Moana - We Know the Way [Audio Version with Movie Scene + Lyrics on subtitles] HD - YouTube

◼️イースターからマダガスカルまで

オーストロネシア人は、ヨーロッパに大航海時代が到来するまでは、人類史上で最も優れた船乗りでした。彼らの到達地点は、東端はイースター島、西端はアフリカのマダガスカル島に及びます。ポリネシアメラネシアで、その他に元から住んでいたネグリト(小柄で肌色が濃い)と混血したように、アフリカ大陸に近いマダガスカルでは、ネグロイドと混血しました。そのため、現在のマダガスカル人には、モンゴロイドネグロイド両方の特徴を見てとることができます。

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(モンゴロイドネグロイドの特徴を持つマダガスカルのメリナ人)

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◼️日本にもやって来ていたオーストロネシア人

はるか遠洋まで辿り着く航海技術を持ったオーストロネシア人にとって、対馬海流黒潮に乗って日本に来ることは難しいことではありませんでした。日本人は一般的に「縄文人弥生人の混血」と言われますが、そのなかにオーストロネシア人の血が含まれていることは疑う余地がありません(ほかにも沢山混ざっています)。彼らに由来する遺伝子は、母系のミトコンドリアDNA(ハプログループB4)ベースで日本人の9.1%、父系のY染色体DNA(ハプログループO1a)ベースで日本人の3.4%に引き継がれているという調査結果があります。またヒト白血球抗原型抗原(B54-DR4)の特徴を追ってみたところ、沖縄から九州南部、愛知や静岡など本州太平洋側にオーストロネシア人の遺伝子が比較的色濃く残っていることがわかったそうです。鹿児島、宮崎あたりにいた古代部族の「隼人」は、オーストロネシア人の一派だったのかも知れません。

◼️言葉に残る海洋民族の足跡

私たちが何気なく話している日本語のなかにも、オーストロネシア人が残してくれた置き土産があります。この記事でも使った「人々」や「いろいろ」「日々」といった、言葉を重ねることで強調や複数形を表す語法は、日本語とオーストロネシア諸語の分かりやすい共通点でしょう。例えばインドネシア語で本は「buku」、複数の本は「buku-buku」です。フィリピンのタガログ語で「日」を意味する「araw」を重ねて「araw-araw」とすれば「毎日」になります。

ほかにも音韻や接頭辞の存在、語彙での共通点についても国内外の研究者から指摘されていて、韓国語に通じる北方の言語とオーストロネシア系の言葉が融合して日本語が出来上がったという説がかなり有力です。

◼️あの子がフィリピン人に見える理由

日常生活のなかで、誰かが「日本人なのによくフィリピン人と間違われるんだよね」とぼやく場面に出くわすことは珍しくありませんが、それが不思議でないことはもうお分かりですね。「内向き」と言われて久しい我々日本人の中にも、カヌーに乗ってマダガスカルイースターに到達した海洋民族の血が流れているのです。

この記事が、これから先も日本で見かけることの多いだろうフィリピンやインドネシアの人々に親近感を抱くきっかけになれば、さいわいです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。