祝全豪OP優勝!大坂なおみ選手の国籍を巡る「2019年問題」とは

大坂なおみ選手が26日、テニス全豪OPで日本人として初優勝し、アジア勢としても初となる世界ランク1位を決めました。日米の二重国籍である大坂選手は現在21歳。日本の国籍法の規定によって、22歳の誕生日を迎える2019年秋までに、日米どちらかの国籍を選択しなくてはなりません。日本テニス界にとっては「2019年問題」とでも呼ぶべき大問題でしょう。国籍法や五輪憲章の規定を確認しつつ、大坂選手に今後も「日本人」として活躍してもらうためには何が必要なのかを考えてみました。f:id:Kosuke_Ueno:20190203043423j:image

目次
  1. 日本の国籍法と二重国籍
  2. 環境的には米国籍が有利か
  3. 東京五輪はどうなる?油断は禁物
  4. ずっと日本国籍者でいてもらうには

◼️日本の国籍法と二重国籍

まず、二重国籍について、日本の国籍法がどのように規定しているのかを確認します。大坂なおみ選手に関わってくるのは、第14条と第16条でしょう。

第十四条 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。
2 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。
第十六条 選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。

日本人の母とハイチ系米国人の父の間に生まれた大坂選手は、出生と同時に日本と米国の二重国籍になったと考えられます。その場合は22歳になるまでに、どちらか一方の国籍を選択しなければ行けません。そして、もし日本国籍を選んだ場合には、米国籍の離脱に努める必要があります。大坂選手の誕生日は10月16日なので、あと9ヶ月足らずのうちに日米どちらの国籍を選ぶのか判断しなければならないのです。

◼️環境的には米国籍が有利か

幼い頃に日本から米国に移り住んだ大坂選手は現在、米フロリダ州の施設を練習拠点にしています。日本語より英語のほうが得意なのはインタビューを見ていて一目瞭然。そして米国テニス協会から猛烈なラブコールも受けています。客観的に考えれば、彼女が米国籍を放棄して「外国人」として米国内で練習を続けることは合理的ではないでしょう。彼女が将来的に米国籍を選択したとしても、仕方のないことかも知れません。

◼️東京五輪はどうなる?油断は禁物

大坂選手には、2020年の東京五輪での金メダル獲得の期待もかかります。個人的には、もちろん日本代表として出場してもらいたいものです。五輪憲章では競技者の国籍について、以下のように定めています。

規則46付属細則1- 同時に2つ以上の国籍をもつ競技者は、自己の判断により、どちらの国を代表してもよい。しかし、オリンピック競技大会、大陸別競技大会または地域別競技大会、もしくは関連IFが公認した地域選手権大会、もしくは世界選手権大会において、1方の国を代表した後はもうひとつの国を代表することはできない。

大坂選手は2018年の国際大会に日本代表として出場しているため、この規定に照らせば2020年の東京五輪は「日本代表」として出場する以外に道はないように見えます。しかし油断は禁物。この五輪憲章の規則には続きがあります。

但し、国籍を変更した者もしくは新しい国籍を取得した者に適用される下記第2項で規定の諸条件を満たしている者は例外とする。

2- オリンピック競技大会、大陸別競技大会もしくは地域別競技大会、もしくは関連IFが公認した地域選手権大会、もしくは世界選手権大会において、1方の国を代表した後国籍を変更した者、もしくは新しい国籍を取得した者は、このような変更もしくは取得の3年後までは新しい国を代表してオリンピック競技大会に参加してはならない。但し、この期間は、NOCと関係IFとの合意およびIOC理事会の承認を得て短縮されることがあり、取り消されることもあるものとする。

JOC - オリンピズム | オリンピック憲章

つまり大坂選手が米国籍を選択すれば、3年後には米国代表になれます。それだけでは東京五輪には間に合いませんが、テニス協会の合意と国際オリンピック委員会の承認があれば、その「3年間」の縛りが短縮されることもありえるのです。大坂選手獲得に向けて米国協会が本気になれば、東京五輪時点で「米国代表」になれてしまう可能性もゼロではありません。

大坂選手は過去に「日本代表として東京五輪でプレーするのが夢」とインタビューで語っていましたから、それを見据えて日本国籍を選択する可能性は充分にあると思います。ただし東京五輪の時点で日本国籍だったとしても、その後に米国籍に変更することは可能です。例えば、東京五輪のすぐ後に米国籍に変更し、4年後の五輪では米国代表になるのは制度的に全く問題ありません。

◼️ずっと日本国籍者でいてもらうには

では、大坂なおみ選手にずっと日本国籍者でいてもらうにはどうすれば良いのか。例えば国民を挙げての応援や支援を続けることで、米国籍選択を上回るメリットを提示し続けるのも一案です。しかし最も抜本的な解決方法は、諸外国同様、ずっと二重国籍でいることを制度として認めることではないでしょうか。そうすれば、米国籍者として米国で練習しつつ、日本国籍者として日本代表でプレーを続けることが可能になります。大坂なおみ選手に限らず、外国にルーツを持つ子どもたちは日本社会のなかで今後、ますます増えてくるでしょう。彼女の活躍が、進まない、というか現状ではほとんど見込みのない日本の二重国籍議論に一石を投じてくれればと思います。